合間を縫って制作していたフルオーダーリング。
約半年の制作期間を経て、この度ようやく完成に至った。
本作は、「悪魔崇拝者」という題材の下に承ったフルオーダーのリングである。
フルオーダーということで、つまりこの世に二つと存在しない指輪となる。
オーダー時のメールにて、先方から受けたデザインコンセプトは以下の様相。
- テーマは「悪魔崇拝者」
- メインモチーフは「目」
- サブモチーフは「逆五芒星」と「ヤドリギ」
- 使用素材はシルバー925(より良いものへと昇華させるためにK18の使用も可)
- 縦4センチほどで重量感のあるリング(目安は60グラム以上)
- リングの腕部分から裏側に及ぶまでデザインを施す
- 繊細さよりも日々の酷使に耐え得る頑丈さを重視
以上の文字情報からデザインを練り、完成したワックス原型がこちら。
メインモチーフである目を造形の核としてストレートに表現しており、中東的なテイストを含むデザイン様式となった。
リングサイドには、サブモチーフの逆五芒星をあしらい、逆サイドには、その逆五芒星を象徴するサタン(バフォメット)の姿を山羊の頭蓋骨で表現し、悪魔崇拝者という題材にスパイスを加えた。
当ブランドでは、ロストワックスの技法による作品制作が主軸となっており、このワックス原型を完成させるまでの作業が最も過酷であるといえる。
今回は特に、オーダー時に具体的な文字情報は得たものの、造形自体の具体性についてはこちらの想像力が主体となる依頼内容であったので、それに伴って生じるプレッシャーに対し、いかに説得力のあるコンセプトと創造性の融合を成し遂げるかが自己の課題となった。
そして、完成したワックス原型は、例によって専門業者に外注し鋳造。
鋳造工程から上がってきたものがこちらである。
偶然にも、所持していた石膏の頭蓋骨の眼窩部分にちょうど収まるサイズとなった。
通常ならば、ここから研磨作業、使用金属を証明するための刻印の打刻、燻し工程、そして仕上げを経て作品完成となるが、今回はもう一工程を追加することとした。
メインモチーフである目の虹彩部分に、K18を使用することにしたのである。
こちらは、虹彩部分にはめ込むために制作したドーナッツ型の18金パーツ。
凹状に彫り込んだ虹彩部分の窪みに、この18金パーツを埋め込んでろう付けすることによって、よりリアリティのある瞳の実現を果たした。
ここで、悪魔崇拝と目について言及。
メインモチーフに用いた目は、いわゆる「第三の目(サードアイ)」を表現している。
これは、ご依頼いただいた「悪魔崇拝者」というコンセプトを一種の能力開発として捉え、常人にははかり知れることのできない高次の能力を追求する者として位置付けたものである。
そして、リング裏側(目のデザインの裏面)には、松ぼっくりのような彫刻を施してあるが、これは、第三の目の覚醒を司るとされる「松果体(しょうかたい/ホルモンやメラトニンの分泌を司る脳の内分泌器)」を表現した造形となっている。
また、悪魔崇拝という視点から捉えた本作における目というモチーフは、エジプト神話から生まれた概念である「ホルスの目」にも対応している。
左目の形状であることから、月を象徴する「ウジャトの目」を表していることになる(右目は「ラーの目」で太陽の象徴)。
このホルスの目は、悪魔崇拝のシンボルの一つでもあり、イルミナティやフリーメイソンに関わりの深いシンボルである「プロビデンスの目」にも直接的な繋がりを持つ象徴的モチーフである。
完成品。
頭蓋骨で表現したバフォメットの額部分には「逆十字」を刻んである。
この逆十字は、ワックス原型の完成報告後に、先方からのご要望によって加えたデザイン。
また、リング周囲には、逆五芒星と同じくサブモチーフであるヤドリギの彫刻を散りばめており、リング全体のデザインバランスを整える役割を果たしている。
総重量74.1グラム(内K18は0.6グラム)の重厚なリングとなった。
ここで、リング正面に視点を戻し、リングの上下を這(は)っている二匹の蛇の造形について言及しておく。
蛇については、先方からの指定モチーフには入っていなかったが、ワックス原型のモデリング過程において、デザインを完成へと導くために必然的に呼び寄せられてきたものである。
この二匹の蛇に関しては、ヨーガにおける「クンダリーニ」の概念を取り入れたもので、いわゆる人体の覚醒を司る媒体として象徴的に用いている。
クンダリーニの簡潔な概要としては、人体の情報体の脊柱に沿って存在する管を通して、エネルギーを下から上昇させることによって覚醒に至るという思想である。
このエネルギーを上昇させる経路としての管は三本あるのだが、この管が蛇に結びつくこととなる。
まず、三本中の一本はスシュムナーと呼ばれ、主軸となる管である。
そして、そのスシュムナーに絡みつくように螺旋状に交差しながら上昇する二本の管(イダ、ピンガラ)が存在するのだが、この二本の管のメタファーとして二匹の蛇は機能しているのだ。
尚、上記で解説したリング裏の松果体は、上昇したエネルギーの最終的な到達点として定めたものでもあり、いうなればスシュムナーの先端である。
また、蛇というモチーフには神聖なイメージがあるが、反対に悪魔的なイメージも我々の潜在意識には強く染みついており、本作において陰陽の二元性を示すシンボルとしても機能し得るだろう。
そして、そこには当ブランドxCROWxNILxTAILxCOCKxが提唱するブランドコンセプトである相反する概念が一つとなった完全性を示すものとしてのファンクションも内包されている。
以上を悪魔崇拝者という題材の下に私が下した一つの結論とし、今回のフルオーダーリングの作業報告とさせていただこう。
尚、次回記事では、同時に承ったもう一つのフルオーダー作品について報告する。
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著/臣咲貴王