「神聖なるプレイリスト」第六回。
今回は、二度目となる「DIR EN GREY(ディルアングレイ)」。
本プレイリストは、禍々しい狂気を纏ったイメージの強い同バンドの中でも、表面的に音の空間が多いものやそこはかとない静けさ、冷たさを感じる曲を軸にリストを組んだ。
木々も枯れ、陽も遠ざかる冬にかけてのこの季節に相応しいかと思う。
では、再生。
- SA BIR(アルバム「UROBOROS」収録曲)
- 輪郭(アルバム「ARCHE」収録曲)
- Midwife(アルバム「ARCHE」収録曲)
- Bottom of the death valley(アルバム「鬼葬」収録曲)
- ain’t afraid to die(アルバム「DECADE 1998-2002」収録曲)
- embryo(アルバム「鬼葬」収録曲)
- undecided(アルバム「鬼葬」収録曲)
- 濤声(アルバム「ARCHE」収録曲)
- 悲劇は目蓋を下ろした優しき鬱(アルバム「Withering to death.」収録曲)
- INCONVENIENT IDEAL(アルバム「UROBOROS」収録曲)
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一曲目「SA BIR」。
その鼓動と旋律は胎動のようであり、自らの運命を眈々と紡ぐような繊細さすら感じさせる。
不穏でありながらも美しいSEが、本プレイリストの始まりを厳か(おごそか)に告げる。
二曲目「輪郭」(シングル版をiTunesから入手)。
本曲の舞台である悲劇的な世界に”無作為に”生み落とされたと認識している”弱さ”を表す曲として配置。
実際には、”写実”的に”描き出”される過酷な”現実”としての”ガラスの道”は、”鬼”の手による作為的な情報世界であるが、その”無色に変”わってしまった”夢や愛”に対する執着を最後まで捨て去ることができないまま曲は終わる。
透明度の高いファルセットで繰り広げられるサビのメロディーが美しい。
三曲目「Midwife」。
本プレイリストにおいては、唯一要所にハイテンポが混ざる「Midwife」。
“愛おし”くて”愛くるしい””貴方”、つまり生まれた赤子は、”人間面”をして無制限(“UNLIMITED”)に”突き刺す”他国の”害虫共”に”よく似て”おり、”愛”と称する”ずぶといナイフ”で助産婦に日の丸にされてしまった(嬰児(えいじ)殺し)という解釈。
四曲目「Bottom of the death valley」。
望まぬ近親間の快楽に”溺れ”た卑猥(“Obscene”)で淫ら(“Lustful”)な”ママ”(姉)。
本プレイリストとしては、”自由に”なる”私”は、”トランクに””詰め”られて天国(“Heaven”)へ向かう”子供”であり、母親である”私”は、”底にある希望の扉”を目前に”車”から降り、”トランク”を”白い海底”へ投げ捨てたと解釈する。
よって、最後の”今も二人で”の二人とは、母親(姉)と父親のことになる。
それは、彼女にとって自殺(“Suicide”)の恐怖が生き続けることの恐怖に勝ってしまった結果であり、同時に、過ちという名の快楽が生への強い執着を生んでしまったと捉える。
五曲目「ain’t afraid to die」。
悲しみ深いピアノ旋律から始まる。
一つの”四季”を思い返すような抑揚のある曲構成には、一種の中毒性がある。
ラストの大サビで壮大さは最高潮となり、曲に温かみが生じることで、アウトロに配置されたイントロ同様のピアノリフレインが更なる悲しみを醸す(かもす)。
六曲目「embryo」。
胎児の意味を持つ本曲「embryo」は、三曲目の助産婦を意味する「Midwife」と対をなす。
また、四曲目の「Bottom of the death valley」とは、タブーな性愛がもたらす惨劇という点においてストーリーの関連性がみられる。
臍の緒(へそのお)を引きずるように重く憂鬱なベースラインが印象的。
“心がね張り裂けて笑ってる”という一文が、ここまで再生してきた曲も合わせた精神の限界値を表している。
七曲目「undecided」。
枯れた木々を思わせるようなイントロの乾いたアコースティックギターが、そこはかとない寂しさを感じさせる。
前曲で心情の臨界点を迎えた世界観は、ここから一気に冷たさを増す。
無情に過ぎ去る”季節”を眺めながら、後悔に縋る(すがる)ことで自己を保とうとする。
八曲目「濤声」。
四曲目「Bottom of the death valley」の”白い海”へと沈んでいく”私”、また、三曲目「Midwife」で殺された赤子の純粋な心象になぞらえた。
混じり気のない水面の波音を主観したように精神性の高い曲。
九曲目「悲劇は目蓋を下ろした優しき鬱」。
終始、”紺碧の海”の美しさと悲しさに満ちている。
“冬が眠るあの季節には花束を添えに行くから”という歌詞は、”あの崖”(Bottom of the death valley)を連想させ、その季節感は「ain’t afraid to die」の”今年最後の雪の日”に通じている。
十曲目「INCONVENIENT IDEAL」。
“波に呑まれたモラルは籠に揺れ眠る”という部分は、ここまで再生してきた曲における加害者の弱さの犠牲となり世を去った者を表し、”地に落とされる雨は止むことなくただ打ち続ける”という部分は、この世に生き残った者が味わい続ける苦しみを表している。
理想に執着すると同時に、気づかぬところでもはや歯止めの効かぬ犠牲が生み出されているということについて、この絶対的な仕組みが我々を導く先にあるものは、執着を捨て去るという魂の最終形態であるのかもしれないと思わせる。
以上、全体的に人間の執着が生み出す痛みと悲しみについて羅列したリストとなっているが、”笑顔”や”笑って”、”微笑んで”、”笑み”という歌詞が多くの曲に見られることから、それでも人はどこかで喜びの方向性を求めることで生き続ける意義を見いだそうとするのであり、その正への執着が逆転的に生じさせる負の現象を不可欠な体験として受け入れることで、少しづつ成長していく必要があるのだとまとめておく。
ということで、今回のプレイリストも再生終了。
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著/臣咲貴王